ボタニカルアートの世界 -観察力が世界を変える!

たちかわ市民交流大学主催の「色えんぴつで楽しむお手軽アートー夏野菜を描こうー」に参加した。講師は、植物画家の小林英成先生。初めてボタニカルアートの世界を体験した。キュウリ、オクラ、ピーマン、エンドウ豆が参加者の各々のテーブルに置かれていた。これから3回の講座の中で、夏野菜を実際に描くことになる。
第1回目の講座(8/11)の講師の印象に残ったお話とアドバイスを4つ。

野菜とは!

「野菜とは、人類が野生の植物の一部または、全部を長い時間をかけて特化・改良したもの。→文化遺産である。」野菜について深く考えた事はなかったが、言われてみれば植物の歴史は人類より長い。人間との関わりの中でこれからも発展し続けるに違いない。しかし、源を辿れば野菜の「野」は、野生なのだ。

野菜には、背骨がある!

「キュウリにはキュウリの、ピーマンにはピーマンの背骨がある。背骨を意識するとうまく描ける」そうなんだ、野菜を描くにしても人間と同じなんだ。中心軸というものがあるのだと気づかされた。

肝心な個所から描く!

「一番見せたいところから描くのがボタニカルアート。萼(ガク)を見えるように描いて下さい」ボタルカニアートとは植物学的芸術。印象派絵画とは全く違う視点から事物を見つめることの大切さを学んだ。芸術と言えば作家の心象風景を対象物を通して表現するものだと思っていたが、対象物から人間を見ると最も見せたい部分を描いてもらいたいとも考えられるのではないだろうか。

観察力が世界を変える!

「よく見れば、キュウリにはイボイボがある。よく見ればオクラは、うぶ毛のような毛がある。よく見ればインゲンは波のように光っている。その特色をわかるように描いていくのがボタニカルアート」最初、野菜を見ながら全体的なスケッチをし、輪郭を鉛筆で何度も書き加えながら野菜の雰囲気を絵にしようと試みていたところに先生がアドバイスに手を加えてくれた。先ずお皿を消された。オクラには、輪郭を小さな点を連続して書き加えた。キュウリには、イボイボを描き余計な線を消した。そうすると、今まで全体的な形しか伝わっていなかった絵に質感や触感が蘇ってきた。目を凝らして野菜を見ると見えているはずの線や形を実は見ていなかった事に気づいた。観察力が世界を変えるんだ!

※図の左から ・当日の画材:野菜 ・講師の小林英成植物画・ロートホルン(世界初の赤いテッポウユリ)・オリエンタルハイブリッド(カサブランカ)
小林英成
:植物画家、日本植物画倶楽部初代会長。1956年北海道生まれ。大学では版画を専攻。3年間スぺイン・バルセロナに留学。植物画コンクール国立科学博物館長賞受賞、ハント国際植物画展招待出品(アメリカ)、カーチス・ポタニカルマガジン作品掲載(イギリス)、その他個展、植物画グループ展への出品多数。

《追 記》

第2回講座(2020.8.18)
お供え餅を真上から描けるか? -平賀源内と小田野直武(なおたけ) -

「立体感は、陰影によってつくられる。色と陰影で描けばリアルに見える。手品と同じ。」 平賀源内が鉱山開発のため秋田藩に招かれた折、角館(かくのだて)の武士小田野直武と出会い直接、絵の指導をした。「お供え餅を真上から描けるか?」- 西洋画の心得のある平賀源内は、2重丸の平面図に影を書き加え、立体的に見えるお供え餅を示した。これが機縁となり小田野直武はその技法を極め秋田蘭画(秋田派洋画)が始まった。

平賀源内:(1728-1779) 江戸時代中頃の人物。本草学者、地質学者、蘭学者、医者、殖産事業家、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、蘭画家、発明家として知られる。享保13年、四国高松の足軽の子に生まれたが、長崎に学んで電気から薬草、はてはオランダ画まで修得。江戸に出ては風来山人と号して文学史上有名な戯作をものにするなど、天衣無縫の活躍をした快人物。平賀源内が人を殺めた疑いで入牢し、直武の死の前年安永8年、牢内で死亡。日本のダ・ヴィンチと称される。(図は、平賀源内の描いたと伝えられる「西洋婦人図」)

 

小田野直武:(1749-1780) 寛延2年に秋田藩角館で生まれる。幼少の頃より絵の才能に優れ、狩野派に学ぶが、安永2(1773)年7月平賀源内と出会い、西洋画の指導を受ける。更に江戸で源内のもと修行に励み、杉田玄白・前野良沢らの翻訳したわが国最初の医学書ともいうべき『解体新書』の挿絵を描いた。また、国宝「東叡山不忍池図」等、透視画法、陰影法を使った写実画を残している。日本画と西洋画を融合した秋田蘭画の先覚となる。安永8年、秋田藩から謹慎を命じられ帰郷するが翌年の安永9年5月に31歳で病死。(図は小田野直武の描いた解体新書)

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「夏野菜を描こう!」作業手順:私の場合 (第1回・第2回)

第3回講座(最終講座)(2020.8.25)

今日の先生の言葉

「平面のみかんの絵にみかんの色を塗ってもみかんに見えない。陰影があってみかんになる」

「ボタニカルアートの原点は、植物の持っている特徴をいかに他の人に伝えるか」

「常識が邪魔をする。常識を超えれば思わぬ新しい風景が見える」

黒鉛筆で陰影を描くわけだが、ここが重要だとの小林先生の指導。しっかりと陰影を描くことがポイントだという。私は、黒々と描かれた陰影の上に仕上げの緑色を重ねたが、なかなかキュウリの色に近づかない。思わず「先生!黒に緑を重ねても黒いままです!」と質問をした。小林先生は「もっと強く緑を塗るんです!必ず変わります!」と断言。ものおだやかな先生のぴしゃりと放つ言葉に圧倒され、これでもかと緑の色鉛筆を強く塗り重ねた。お恥ずかしながら私の生れて初めての野菜画(ボタニカルアートとは恐れ多い)がこれだ。

私の拙い画では、申し訳ないので先生の描かれたプリントを紹介。

3回の講座を終えて一人一人に小林先生直筆の「修了書」が授与された。講座を企画・運営された「たちかわ市民交流大学」のスタッフの皆さんにも感謝したい。

日記プラス:最後に私自身が学んだこと

サン=テグジュペリは「星の王子さま」で『いちばん大事なものは、目にはみえない・・・』と語った。しかし、よく見れば見えているものを見ていなかっただけかもしれない。子どもの成長や妻の変化、地域や職場の人間関係など。
オクラには、産毛がある。見えているはずなのに絵にすると平たんに描いてしまう。じっと観察すると一つ一つの産毛が鮮明に目に焼き付いてくる。今までにない世界が広がる。そうすると表現が全く変わってくる。線の描写が点になるのだ。観察力は世界を変える。真実を読み取るには、心のベールを取り払う果断な努力が人生には必要なのだ。2020.8.30

1.みる→見る・視る・看る・覧る・相・観る・診る・察 
2.みる→①視覚に限らず広く感覚を働かして、探りとらえる 「目でみる」「手に取ってみる」「触ってみる」「動かしてみる」
    「聞いてみる」「味をみる」「調子をみる」「脈をみる」
    ②感覚でとらえたものについて、判断・評価をする。「答案をみる」 (2020.9.14)

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